やることがとにかく早いという、せっかちなAさん。でも、人生、今だかつて心から楽しんだことがない・・・と。
それもそのはず。せっかちさんは思考がクルクル超高速で回転しています。そして思考だけで現実の表面をスルスルと滑っていく感覚です。それには実体が伴いません。ある意味、バーチャル・リアリティ。
自分の生き生きとした生命力が、怒濤のような自分の思考の中に埋もれ、自分のパワーとふれあうことがないのですね。
「生きる」ということは五感をフルに稼働させること、実際に身体を使って体験すること、それによって自分の中の生命力が喜ぶこと。ところがAさんの場合は、暴走気味の自分の思考についていくことが精一杯で、「今、ここ」を体験しながら、それを自分の生命力で受けとめることがおざなりになっているようです。
思考にたより、永らく五感を使っていないと、「ん??感じるって、ど〜いうこと?」となってしまいます。ご本人は「感じている」つもりでも、すぐに「考えたり」「解釈したり」というモードに入っているのですよね。これは男性にとても多く、ご自分の感覚・感情について尋ねても、応えは一般論なのです。
「いろいろな味を感じる」「季節の風や花の匂いを感じる」「人のぬくもりを感じる」「愛を感じる」「くつろぎを感じる」「美しい音色を感じる」「自然にあふれる色を感じる」「言葉にできない感じを感じる」・・・・など、日々の生活の中で感じられること、体験できることは様々。
感じるときには、五感のすべてのモードを使って、それがどんなか感じようとします。呼吸はゆっくりになり、忙しかった頭はお休みして、どちらかというと身体全体を使う感じです。リラックスして、身体の中にエネルギーが戻ってくる感じがします。また、感じることによって、自分の中に広がりを感じるし、自分の中の「思考ではない」もっとイキイキしたものに出会うことができます。
思考を続けていて、このようなリラックス感、イキイキ感を感じることはありません。
Aさんの場合は「コントロールされないようにするためにせっかちになって、感じるかわりに思考モードになってしまった」わけですが、同時につらい母娘関係であったために「これ以上感じてしまったら、自分がだめになってしまう」と思い、自分を防御するひとつの方法として、感情を感じるヒマを与えなくしたという理由もあるようです。
いずれにしても、「感じる」モードが閉じた人生を過ごしていると、どうにも人生が味気なくなって「こんなはずじゃなかった」ということになります。それぐらい「感じること」は大切で、「感じること」はまさに自分の生命力に出会うことであり、いきいきした人生を送るカギでもあります。
Aさんの子どもの頃から握りしめていた「(母から)支配されないために、なんでも超高速でやるべき」という信念は、彼女が小さな子どもとして無力であったときには役に立ちましたが、もう十分に自分のことを自分で守ることができる今となっては、彼女の人生を楽しくするには役に立っていないようです。
「こんな、いらない信念を握りしめていたんだ!」と単に気づいて意識にのぼらせ、何かこれからの自分に役に立つ新しい信念を決めるだけでも、変化を起こすことができます。すぐに体験する自分の世界が変わってくるのに気がつきます。(セラピーのセッションの場合には、もう少し深いところから信念を取り去し、入れ替えるという作業をしてあげます。)
Aさんの場合は、旧い信念をお掃除したあと、「人に対しても、自分に対しても、支配とは無縁である」という新しい信念に置き換えたのでした。それと同時に、思考をスローダウンするために、自分の注意を頭の中におかず、外に出して、ひとつひとつを感じてみることも練習してみます。
翌々日にお目にかかったAさんのモードは、どこかゆったりしてきているように感じられましたよ。
おもしろいもので、わたしたちは「自分の信じていること」を少し置き替えてあげるだけで、すぐさま見える世界が変わります。つまり、わたしたちは自分の信念という色眼鏡で色づけした世界しか見ることができないので、適切なレンズの交換(信念の交換)は見える世界をバージョンアップさせるためにはとても大切なことなのですね。
コンタクトレンズでも眼鏡でも、こどものときからの度数ではあわなくなるのは当然。今の自分にあった度数のコンタクトや眼鏡(信念)が心地よい世界をつくってくれるのです。
そして不思議なもので、一人の見方が少し変わることで、その人に関係している多くの人たちの見方もまた同時に変わっていくことが起ります(たとえば、家族の誰かがセラピーを受けると、他の家族までいろいろと変わっている・・・という具合に)。そう、これは「わたしたちは常に自分がこうだと思っている世界を見ている」ということ。
自分が変われば、モロモロも一緒に変わる。みんな連動しているのです。すべては、世界は、ひとつですからね♪
(こちらのブログはご本人のご了承を頂いた上で書かせていただきました)
(「気づきの日記」バックナンバーはこちら: 古川 貴子/心理療法家・ヒプノセラピスト)