16-12-06 ニコラスさんとユダヤ人の子どもたちの再会のお話

ヒプノセラピスト古川貴子のブログ

以前、テレビで観たことがありました。ニコラス・ウィントンさんの話。

第二次大戦直前、ユダヤ人の子どもたちを救うべく特別な列車を計画したイギリス人男性。もう一人のシンドラーとうたわれています。

しかしウィントンさんの偉業は戦後50年、奥さんはおろか誰も知らなかったそうな。奥さんが自宅の屋根裏から当時の古びた資料を発見するまでは。

彼は、ホロコーストでユダヤ人が命をおとしていくなか、せめて子どもたちをなんとか救出したいと思い、列車でイギリスの里親へと子どもたちを送り出す「キンダートランスポート」計画を行ったのです。救われた子どもの数は、じつに669人。(イギリスに無事到着したこどもたちは、トランクを持った小さくけなげな姿がパディントン ベアのモデルになったそうです。)

その子どもたちはのちに世界中へと飛び立ち、化学者や教育者、学者などのさまざまな職業につきます。そして、そのうちの一人であるカナダ人ジャーナリストが、このドキュメンタリー映画「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」を作成しました。救われた子どもが作った、まさにその当時を語るフィルムです。

50年以上たって、消息が確認された子どもたち(すでにおじいちゃん、おばあちゃんたち)は再び集まり、当時を再現するチェコからイギリスへの列車の旅に出ます。

それぞれが驚くほど鮮明に、半世紀以上前となった両親との別れの様子や、国境を越えるまでの恐怖、列車のなかの様子、里親に迎えられた安堵感などを覚えていて、詳しく語っています。とくに両親との別れを回想するシーンは、まるで昨日のことのようにありありと語られていて胸がいたみます。

BBC放送はニコラスさんを招いて、当時のフィルムを見ながら彼の偉業をふりかえる番組を作成します。救われた子どもの一人一人の顔がスクリーンに映し出され・・・なんとそのうちの一人は番組でニコラスさんのとなりに坐っている女性でした。命の恩人に出会ったその女性はニコラスさんの手をとり、ほんとうに嬉しそう。ハグをしたりキスをしたりと、感動的な再会シーンが映し出されます。

さらに司会者が、「この他にもニコラスさんに救われた人はお立ち願えますか?」とスタジオの観覧者に声をかけると ・・・ざざっ・・ と音がしたかと思うと、なんとそこにいた全員が立ちあがったのです。ニコラスさんを囲んで坐っていた人たちは、じつはみんな当時の子どもたちだったのです。涙、涙の再会シーンでした。

そしてこのストーリーはニコラスさんとその子どもたちだけのものではなく、孫の代までいろいろな活動として今も広がっている様子をうつしだします。ニコラスさんの影響は戦後70年の今も、さまざまな活動としてその心がうけつがれているのです。

ニコラスさんは当時、「するべきことをしている」という感覚だったようですが、50年以上たって生きのびた子どもたちに再会することで、あらためて自分がなしとげたことの大きさに気づかれているようでした。

以前わたしは、東洋のシンドラーといわれる杉原千畝さんのリトアニアにある領事館兼お家を見にいったことがありました。

千畝さんが何千人ものユダヤ人のビザを発行したデスクに坐ってみたとき、「どんな気持ちで行っていたのだろう?」と思いを馳せたことがありましたっけ。ニコラスさんにしろ、千畝さんにしろ、自分の身に危険が及ぶことだって十分考えられたはずなのに、なんという決断、勇気。

ホロコーストの悲しみのなかできらめく命のストーリー。きっと名前は知られることはなくても、尊い命に貢献した人たちはもっとたくさんいたのでしょうね。

ニコラスさんのドキュメンタリー、ご覧になるかたはハンカチ必携です!