お茶の間シネマトーク「生きる」

映画好きのわりには、めったにしないのがおうちシネマ。なぜなら、いつも知らないあいだにグ〜ッスリなのです。そんな私が、これまた珍しく『邦画』のDVDを借りてきてしまったのが、黒澤明監督の「生きる」。

30年間無遅刻無欠勤で、ミイラという愛称までつけられているお役所の課長さん。彼についてこんなナレーションが入ります。「今は、彼について語るのは退屈だ。彼は時間を潰しているだけだから。彼は生きた時間がない。彼は生きているとはいえないからである。これは死骸も同然だ。この男は20年ほど前に死んでしまった。それ以前は少しは生きていた・・・」。たしかに・・・いのちがあるから生きているとはいえません。

そんな彼が突然末期がんになり、急にあり金をはたいて遊びまくります。しかし、空虚さはつのるばかり。ふと、「私にも何かできるかもしれない・・・」と目醒めがやってきた喫茶室。若い女性たちが友人の誕生日を祝ってバースデイソングを合唱しているさなか、彼は火がついたように飛び出してゆくのです。まさに、彼が本当の意味で生まれた瞬間でした。そして、数ヶ月間奔走し児童公園をつくりあげます。

病魔におかされ歩くことさえままならない身体になりつつも、どこまでもあきらめません。できあがった公園でぶらんこに揺られながら息をひきとる彼の瞳は、満足げでどこまでも澄みきっていました。

最近の日野原先生のお話に続いて、「真に生きた時間を活ききる」ということを考えさせられる一本でした。
涙壷度:★★★☆☆
昭和レトロがはやる昨今、この1950年はじめの作品は今観るからこそ、建物・服装・生活などなど、かなりおもしろいです。