日本の巨匠に酔いしれる

どちらかというと西洋絵画がお好みです。でも、東山魁夷だけは別格。まるで油を使ったような深いタッチ、そして神秘的な表現。高校生の頃から大好きでした。そこへ、「東山魁夷のチケットあるけど行く〜?」というお誘い。もちろんっ!生誕百年の大回顧展です。これはぜったいに行こう!と決めていました。

入り口にある音声ガイド。ふだんは見向きもしないのですが、なんと東山画伯の肉声による解説と聞いてとびつきます。

もう、ここから混雑も気にならず作品に完全没入。それでも、ご一緒させていただいたMちゃんとはひとつ観るごとに作品について熱く語らずにはいられません。

ここまでたくさんの作品が一堂に会しているのははじめてです。ほんとうにどれも素晴らしい〜。ため息です。

すべての作品からにじみ出る静謐さと深い精神性。音声ガイドのお言葉に耳を傾けるほどに、ああどの作品も画伯ご本人の心のすべてなのだと。まさに画伯の心象風景。何ひとつひけらかすことなく、誇張することなく、驕ることなく・・・ただご自身の魂と向き合いながら深い瞑想のように創り出される作品の数々。

鑑賞中幾度となく涙がこぼれそうになるのをこらえつつ、最後の作品「夕星」へ。

これは、「(高齢で)もう旅することもままならなくなり、夢の中の風景を描いた」とご本人。まさに絶筆となった作品。一生をかけて世界中、日本中を歩かれ作品を生み出されたここまでの人生。それがもはやできなくなったことに対する悲しみや失望はかけらもなく、ただ淡々と静かにうけとめていらっしゃるのが印象的。そこまでの人生をじゅうぶん生ききったものだけがもつ、深い静けさと安堵を感じました。

観おわってあふれる涙をぬぐいながら隣のMちゃんを観ると、彼女も涙をいっぱいためて「夕星」に魅入っていました。最後の作品の前をなかなか立ち去ることができない二人なのでした。

PS 画集や絵はがきは、どれも色がねぼけていてとても残念。是非、実物をご覧下さいませ。