お茶の間シネマトーク  不思議な一本「言えない秘密」

音楽学校の一室で、ピアノの音色に導かれ運命的に出会う二人。惹かれあい、恋に落ち・・・しかし、ある日彼女はこつ然と姿を消すのです。なぜなら、「言えない秘密」があったから・・・。

なるほど〜、ラブストーリーにおきまりの「言えない秘密」。おそらくは不治の病やなんとやら・・・。あんのじょう、彼女はたしかに喘息もち。でもそんなこと、このストーリー展開からしたらたいした問題ではありません。

この映画がおもしろいのは、この「言えない秘密」があまりにも想像をこえていたことにもあるのですが、わたしはこの主役のジェイ・チョウという俳優さんに感服いたしました。初めて耳にするお名前でしたが、台湾ではかなりの人気だとか。

映画のなかで学友とピアノバトル(相手が弾いた曲を即興ですべて完璧にひきこなす)を演じるのですが、すごいピアノテクです。これはまったく代役なし。彼そのものの演奏なのです。じつは、この舞台になっている音楽学校は、かつてこのジェイ・チョウが学んだ音楽学校だとか。

もっと驚いたことは、このストーリーでキーになる美しい旋律のピアノ曲があるのですが、これも彼の作曲。さらに、さらに、この主演のみならず、監督、脚本、音楽もすべて彼が手がけているということ。まさに、このジェイ・チョウという青年が表現したかった彼独特の映像と音楽の世界を完璧に創りあげているのでしょう。舌を巻きましたよ〜。

話のテンポもよく、まったく何の予備知識もなく観に行ったにもかかわらずけっこう掘り出しものの一本でした。映画全編に流れる旋律も美しく、映像もあたたかみがあります。中国でもなく、香港でもなく、韓国でもなく、ましてや日本でもない、台湾映画の不思議なレトロさ。どこか、昔に見た風景のようでした。

涙壷度:★★☆☆☆(激しくではないけれど、「秘密」に泣かされました)