タイトル「幸せな子」とはほど遠い内容です。これでもか!と襲いかかる苦難と悲劇。それでも生きてゆく小さなこども。「幸せな子」というより、わたしにいわせると「地獄で仏な子」とでもいいましょうか?つまり、地獄にいてもなお生きながらえる子、ということです。
ユダヤ人である著者トーマス・バーゲンソールが第二次世界大戦中の収容所での実体験をつづった本書。当時ほんの7歳ほどだった少年トミーは両親と引き離され、たったひとりでガス室行きの選別や収容所での病気、食べ物のない苦しみ、極寒での死の行進、足の指を失う災難・・・という度重なる絶体絶命を生きぬきます。仲間がばたばたと命をおとす中、なぜか奇跡的に生きのびてゆくのです。たったひとりぼっちで。
戦後、この収容所の様子を綴った本数冊にこの男の子の姿が記録されています。収容所の「小さな天使」として。一人のみならず、複数の人が彼の幼い姿を天使として記憶しているのは、おそらく極限の生活の中でも、その純粋無垢さが人々に安らぎを与えていたのかもしれません。
少年は収容所から解放されたのち、女性収容所で生き残った母とこれも奇跡的に再会。ようやく子供らしい子供時代を取り戻します。今まで、誰に甘えることも、頼ることも、守ってもらうこともなかった子供が、10歳をすぎてようやく無条件に自分を投げ出すことができるようになったのです。
幼少期に壮絶な体験をくぐり抜けた彼は十代にして大人と議論ができる少年に成長し、果てはアメリカに渡り、ハーバードで博士号をとり、国際司法裁判所の判事として人権問題において世界的な影響を与えているのです。
仲間や家族はみな殺され、当然この場面ではもう絶対ダメだというときにも不思議と生きのび続ける小さな男の子。それもたったひとりで。いったい何が彼をそんな「幸せな子」にしたのだろうと考えました。当時の写真を見るととってもかわいいので、たしかに多くの人が無意識のうちに彼をかばっていたこともあるかもしれません。この本の内容からはくみとれませんが、少年の性格も無垢で人の心に愛をよびさます特別なものがあったのでしょうか。
わたしが感じるのは、ここで生き残ることこそが「彼の道」だったし「寿命」だったということ。病気であれ、事故であれ、それがどんな亡くなり方にしろ、わたしはそれが「それぞれがもっているまっとうな寿命」だと感じます。たまたまやアクシデントはなく、それこそが自分がきめてきた命の長さであると。彼の「寿命」は収容所を生きのびて、その体験を世界中の人権問題のために役立て貢献し、そしてついにお役目が終わったときにやってくるのでしょう。
やはりどんなにつらい体験であっても、そこには自分の存在意義をかけた学びが存在しているのだな〜と感じました。
PS 眠る前に読んでいたら、新年からめいっぱい収容所に入れられる夢をみました。(@_@)