めったに開けない引き出しから、重厚な革張りのケースが出てきました。・・・ああ、これ、フィレンツェで一目惚れした万年筆。ヴィスコンティという名前だけで、ルキノ・ヴィスコンティファンのわたしは買う気まんまん。そのうえ、マーブル模様が優雅でペン先も細工が美しい、いかにもクラッシックな一本。
でもね、使いはじめるなりあっけなく書けなくなった・・・。修理に出すにも、舶来ものは高い。で、そのままお蔵入り。
見つけたからには修理するぞ!と決めるなり、なんと朝刊のチラシに「万年筆、無料診断・調整」とあるではありませんか。注意を向けると、ソク必要なものは現れる!!
さっそくヴィスコンティとお出かけです。万年筆ドクターのおじさま、ヴィスコンティを見るなり顔をしかめた。もともと、ラテン系は調子がいまいち・・・とか。
それでも期待いっぱいのわたしの眼差しに、おじさま、頑張る!ばらばらにして水で洗い、超音波をかけ、それでもダメなのでこんどはお道具で小さな溝のひとつひとつをガリガリおそうじ。
小一時間それが続き、ブースには無料診断を待つ人の列。しゅみましぇ〜ん。わたしのヴィスコンティがお世話かけてます。でも、おじさま、決してあきらめない!(もしわたしだったら、無料だからこの程度でいいや!って投げ出しそう・・・)
そのうち組み立て直され、さし出された。「ほら、書きやすいよ!」・・・完全に治してしまった。それもタダで。ホントにいいの?
おじさまの指は青インクが永遠にしみこんだような色をしていて、でもその手は一本でも多くの万年筆が天寿を全うできるようにいたって全力なのです。
大切にしすぎないで毎日使ってあげてね、と。そうだね、使ってあげることこそ、ヴィスコンティへの愛情だね。
使い捨てがまかり通ってきた世の中。数少なくてもお気に入りを手にして、どこまでも丁寧につき合うというのはいいものです(モノもヒトもねっ!)。
ああ・・・いいお仕事を見せていただきました。