お茶の間シネマトーク 「THIS IS IT」

五十才になる男性を想像してみてください。それなりに脂がのって貫禄がついてきて、それとともにオツムもちょっと涼しげだったり・・・。まだ日本の男性は若く見えますが、アメリカ人男性だったらビア樽まちがいなし!・・・なのに、この人はどうしちゃったのでしょう?このスレンダーボディに風に舞うような動き。まるで時が止まったような。まさに永遠のピーターパン。

「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」を観てきました。よかったです。とっても。涙・・・。

ずっとずっとスキャンダルばかりで、そこにしかスポットライトを当てられなかったマイケルだけど、これぞマイケル。この、人となり、やさしさ、純粋さ、この謙虚さ、この才能。実際のところ、歌って踊っているか、スキャンダルしか知らず、彼がどんな人なのかは知らなかったのだと感じます。それに、10年のブランクもなんの、その歌声もダンスもすごいです。一世を風靡した頃よりも、ずっと深みがあるしオーラを放っています。

まわりの若いダンサーたちはまさに必死にダンスをしてるけれど、マイケルはといえばダンスをするというよりはまるで音の中にとけ込むように動いていて、とても自然で軽くて美しい。まったくムダのない動き。どのダンサーもかなわない存在感。たいてい、過去のスーパースターがリバイバルしてステージをすると、どこかムリな感じがあったりしますが、マイケルは確かに進化しています。過去の焼き直しではないのです。

それに、このフィルムを見ていると、せっぱつまっているはずのリハーサル中にマイケルはいちいち相手を思いやります。「これは文句を言っているのではなくて、ただ音が聞こえにくかったと伝えたいんだ」とか、いちいち「I love you!」「God bless you!」のメッセージ。かかわる一人一人をほんとうに大切にしていて、スタッフのひとりから「ここは教会かい?」というコメントまで。

人はたまたま死んでしまうことはないといいます。表面の意識では気づけなくても、すべてそれは自分の計画の中。きめられた時がやってきたのです。彼はこんな素晴らしいステージ(ほんとうにこれが完成していたらどうなっていたことか)を、ひとにぎりのファンのためにするのではなく、劇的な人生の幕切れをすることによって本来だったら伝わらなかった人たちにもメッセージを残したのだと感じます。

これだけ純粋な人だったからこそ、世の中と戦うこともなく、彼の中の研ぎすまされた感覚はひたすら自分に向けられたのかもしれません。

自分への愛、人への愛、そして自然や地球への愛があふれています。・・・これはリハーサルフィルムにとどまることなく、もしかするとコンサート以上にマイケルからたくさんの贈りものが届けられているように感じます。心があたたかくなりました。そして、ますますマイケルが恋しくなりますよ。