お茶の間シネマトーク 自分を痛めつける罠「マイ・ブラザー」

アフガニスタンから命からがらの生還をはたす海兵隊のトビー・マグアイア(あのスパイダーマンのこのやつれっぷり!すごい役づくりです)。愛する妻、ナタリー・ポートマンと娘のために守り抜いてきたこの命。なのに、戻った家庭ではまるで別人。心を閉ざし、孤立は深まるばかり。彼は捕虜となった極限状態で生きのびるために部下を撲殺。その抑圧された罪悪感から深い孤独の渕をさまよい続けます。

帰還した兵士のPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、ベトナム戦争から注目されるようになりました。今もアフガニスタンの帰還兵が廃人のようになってしまう例も、かなりの数にのぼるとか。

彼が苦しんでいるのは、生きるか死ぬかの状況にさらされたことよりも、同胞を裏切ったこと。誰に責められるよりも、結局、自分が自分を許せずに苦しみ続けるのです。このような稀な状況に限らず、セラピーの場面でも自分を許すことができないケースを多々目にします。それだけ、わたしたちは深い部分で自分の高い自己を記憶しているし、そこを目指しながら生きているのだと感じます。

自分が許せないことによって、自分の首に荒縄を巻きつけ締めあげます。決して幸せをよせつけない。ことごとく失敗する。他人を使って自分を傷つける。事故にあう。病気になる、はては命をおとす・・・など。まわりはとっくに許していても、最後まで自分を許せないのです。しかし、表面意識では自分で苦しみをつくっていることに気づきません。「なぜ、自分はこんなに失敗ばかりするのか?」「なぜ、自分の人生はこんなにも困難が多いのか?」と悩むわけです。

こんなとき、わたしたちの表面の姿がどうあろうと、今の自分に全面的にOKを出してくれる人が一人でもいると、正気を取り戻して前に進む力が与えられます。今がどうあろうと、真の姿を見続けてサポートしてくれる人。わたしたちは苦しいカラを脱ぎ捨てて、ほんとうの自分に立ち返る力をえられるのでしょう。

どんなセラピーの理論や理解でもなく、心の癒しに必要なのは、ただただ無条件に今の自分、過去の自分を全面的に受容してもらえる体験。つまるところは、魂を目覚めさせ軌道を修正してくれる近道は「無条件の理解」と「無条件の愛」なのですね。

問題にはまっている場合に限らず、どんな場面でもこの理解と愛をさし出せることが何にもまさる最大の贈り物だと感じます。
涙壷度:★★☆☆☆