お茶の間シネマトーク「トム・フォードワールド」

「シングルマン」観てきました。

グッチ、サンローランを手がけた世界的デザイナー、トム・フォードの初監督作品。

もともと俳優を目指していた方で、そこにデザイナーとしてに審美眼が加わり、いやぁ、完全にトム・フォードの世界。

まず、画面の色。ウツ状態の主人公にあわせて、最初はとてもおさえた色調。彼はともに暮らしていた恋人の男性を亡くして以来、完璧に心のバランスを失っているのです。まるで、も抜けの殻のような彼。恋人との思い出の中にしか生きられない彼。そんな彼を象徴するように、色みをおさえたトーンが彼の心と直面する現実との距離感をまるで人ごとのように映し出します。

この物語は、彼のある一日を切り取ったもの。一日のなかで、彼の気分のup and down を画面の色調が微妙に映し出します。一日の終わりに向かって、だんだん画面に色みがついて生気がもどってくるのです。彼は自分の人生、今ここに戻ってくるのです。よいことです。ウツで、それも本当はこの日を最後に命を断とうと決めていた彼ですもの。

しかし、しかし、エンディングはひとひねりあり!おお・・・こうきましたか・・・(汗)。

画面の色だけなく、ひとコマひとコマが計算しつくされています。カット、アングル、色調、登場する建物、インテリア、何気ない小物にファッションと・・・・美しいです。しかし、大学教授の主人公にしては、ちょっとスタイリッシュすぎちゃったかも、とも思います。トム・フォードが撮ると、トイレに坐っている姿まで静かできれいな絵になってしまいます。

脚本もともにトム・フォード。セリフは少ないのですが、コリン・ファースが主人公の静かで深いいちずな愛を演じています。