アスリートの中でもとりわけ肉体に特徴があらわれるのが、バレエのダンサー。
あの天井からピンと吊られたような頭や独特のかたちのふくらはぎ。街中でも、「あ、あのひと、バレエやっているに違いない」と、その姿勢やら独特の足の運びでわかってしまうことがあります。
さて、女優さんがチュチュを着てポーズをとればそれなりに決まるかもしれませんが、プリンシパル役で踊りをみせるとなるとどうなのでしょう?
この「ブラック・スワン」のバレリーナ役、ナタリー・ポートマンを見たとき、わあ、いつもの彼女と違う!バレエやってる女の子のたたずまい、と思いましたよ。ムダな贅肉はかけらもなく、筋肉、それもバレエダンサーの筋肉。
彼女はこの役のために一年前からトレーニングをはじめて、毎日バレエの基礎レッスンと水泳に8時間・・・という肉体改造。このストイックさは、まさに舞台に向かうときのプロダンサー。これだけでも、プロダンサーの気持ちになれそうです。
技術はありながらも母親の過干渉から自信を持つことができないダンサー(ナタリー)が、「白鳥の湖」の主役に抜擢されるのです。が、バレエ一筋で育った彼女に純真な「白鳥」は踊れても、もう一役の妖艶な「黒鳥」が踊れないのです。
初日が迫る激しい稽古の日々に、そんなプレッシャーからどんどん心を病んでゆきます。とりわけ母との関係。その昔、群舞の白鳥しか踊ることができなかった母親からの嫉妬、また役づくりをする中で過保護な母親から離れてゆくことに対する圧力というように、つくられてきた自分から脱しようとする娘とそれに抵抗する母との戦いでもあるのです。
観てるほうもどこまでが彼女の現実で、どこまでが彼女の強迫観念の妄想なのかわからなくなります。手持ちのカメラで撮っているような映像は彼女の目線からものごとを見ているようで、ストレスや緊張、パニック状態が伝わってきます(このあたりになると、ほとんどホラーか?!)。
制作発表のときに監督が「ほとんどナタリーが自分で踊っている」とコメントしましたが、あとで替え玉のダンサーからクレームが出ててしまいましたね。たしかに、舞台初日のクライマックスである黒鳥の踊りは、メイクがばっちりすぎて素顔がわかりません。まあ、このような山場の踊りはやっぱりプロのほうが迫真の演技でしょう。
最後にぎょぎょっ!とするオチもあり・・・。
わたしはあのレベルの肉体改造と、ナタリーが純真なバレエ少女からみるみる病んでゆく様子まで、やっぱりアカデミー賞ものだと感じましたよ。(突然、ウィノナ・ライダーがいて、びっくりしました。)
涙壷度:☆ゼロ(涙なし、唖然とするばかり・・・)
彼女の強迫観念を疑似体験し、ちょっと疲労しました・・・(汗)。