お茶の間シネマトーク「期待しなければ味わい深い“ツリー オブ ライフ”」

ブラピの主演にもかかわらず、まったく食指の動かなかった「ツリー オブ ライフ」。だってウェブのレビューを見ても平気で星が一つか二つだし、なおかつ途中退場者もいるという作品。

そういうのに限って、「127時間」じゃありませんが誘われちゃう。いったん拒否したものの、「娯楽作品だと思って観なければ、あんがい深いかも」「仕事に役立つかもよ」とそそのかされ(?)行っちゃいました。

仕事のあとだなんて、あまりに形勢不利。すでに眠いし。そのうえお腹いっぱいサンドイッチも食べたし、デザートまでいただいちゃった。あとは寝るっきゃないね・・・という状況です。それにしても、ブラピ主演でこの観客の少なさ。年配の方がチラホラ、あとはお一人の方です。

はじまってしばらくすると、お隣の誰かさんは貧乏ゆすり・・・あらら、誘ったわりには飽きてる?その後は眠りに落ちていたみたいです。おもしろくないと即シャッターが降りちゃうこのわたしが最後までぜんぜん眠らずに観終わったってことは、つまらなくはなかったらしいです。少々哲学的な作品で、父がブラピ、息子がショーン・ペンという設定を押さえておけば、どこに話しが飛んでもついてゆくことができました。

ハイ、たしかに場面はくるくる時空を飛び回ります。あるときは火山の映像、そして宇宙、大自然、恐竜までも・・・これはサイエンスものかと思ってしまいましたよ。それにセリフはほとんどなく、問いかけのような静かな語り、そしてたまにあるセリフはつぶやきのよう。

旧約聖書のヨブ記(信仰の篤いヨブでさえ、神からの恩寵を受けるどころか次々と人生の困難にみまわれる)を、息子の一人を失ってしまうブラピ家族の感じる理不尽さに重ねあわせています。テーマについての感想は長くなるのでさておいて・・・。

このブラピ演じる1950年代のアメリカのお父さん、おそろしく厳格で支配的。いっけん幸せに見える家族の心をむしばんでゆきます。

セラピーをしていると、このタイプの父親、多いですね。自然に囲まれた美しいお家、何不自由ない暮らし、家族揃っての食事、寝る前にする父親へのキス・・・見たところ何の不自由もない幸せに満ちた家族に見えますが、すべては形だけ。この父親の自己満足。フタをあければすでに家族の心はボロボロで、父を殺したいほどの嫌悪感が渦巻いています。しかし、すべてに形がととのっていれば幸せに違いない、と父親はあくまでも形(成功すること)を整えることに執着し続けます。

この「成功がすべてである」という父親の無意識には、どれだけの自分に対する無価値感が充ち満ちていたことか。その抑圧し隠し続けて形だけの成功を求めようとした父の無価値感は、息子によってしっかりと表現されているのです。だから、その父から見たらなんともふがいなく見える息子たちに我慢がならず、ついついつらくあたってしまうのでした。

セラピーの中でも、自分でもてあましている自分への不満をこどもに向けかえて、こどもを過剰にコントロールすることによりバランスを失わせてしまう例はあとをたちませんよね。

ヨブ記をベースにしたテーマにもいろいろな感想を抱きましたが、この超支配的なお父さんのメンタリティーと傷ついた息子(特に長男)のトラウマを分析していてもいろいろと気づきがある映画でした。

決してつまらない映画ではありません。でも娯楽作品でもありません。いかにもカンヌのパルムドールな作品です。じっくりと味わいたいときにはよいかもしれないな〜と思いましたよ。

しかし・・・この子役たちのセリフのない演技、すごいでした。