お茶の間シネマトーク「アンジー VS W・ライダーの精神病棟」

久々のDVD、「17歳のカルテ」を観ました。

これは、私生活でも入院歴のあるウィノナ・ライダーが精神病棟で暮らす女の子たちを描いた実話をプロディースし、自らパーソナリティ障害の役を演じています。

病棟のボス的な患者を演じるアンジェリーナ・ジョリーも、自身が10代はウツを発症し、リストカットや自殺の常習者だったとか。なので、実際に心の闇の苦しさや恐ろしさを知る二人の共演とあって、演技といい、ストーリーといい、溢れ出してくるリアルさがあります。

こどもの頃の痛みが激しいスザンナ(ウィノナ・ライダー)は、日常のちょっとしたことがきっかけですぐに過去のフラッシュバックが起こり、その当時の自分に戻ってしまうのです。今という時間の感覚がなくなり、すっぽりとつらかった過去の中にとりこまれてしまうことの繰り返し。

彼女は「今、ここ」という現実に住んでいるのではなく、まさに心の中の住人。思うような愛情を得られなかった過去の自分に戻って、激しい痛みを感じながらも、まだその愛情をさがし求めているのです。しかし、いくら過去の痛みに戻っても、欲しいものが得られるはずもなく、彼女の心はそこに縛りつけられたまま。得られなかったものを悲しみ続けています。

心が過去をさまよっていると、まるで「もぬけのカラ」が生きているように見えます。

しかし、この心が過去をさまよってしまったり、「もぬけのカラ」になってしまうのは、精神障害を患っているからというわけではありません。

実際、「精神障害」を患っているか、「正常」かの見分けも難しいもの。このスザンナの場合も、睡眠薬の多量摂取を心配した両親によって病棟に送り込まれたのでした。ここからが異常という線引きはとても難しく、また人間の精神状態は1日のうちでも大きな波があることがあります。

ほんとうのところ、わたしたちもスザンナのような生き方を、無意識的にしているときがあります。それは、いつも過去のストーリーにとらわれていて、身体はここにあるけれど、心はいつも過去の出来事を反芻しているのです。リアルな現実を生きるよりも、いつも過去を思い出してはそこにとどまって、ひたりきってしまうという・・・心が過去にお出かけしてしまっている人。

わたしたちは注意していないと、じつはやすやすと「今、ここ」にいなくなっているのです。そして、「今、ここ」にいないときには、いつだってとっても不安で、苦しくて、悲しいのです。

いくら過去を訪れて、反芻して、そこをさまよっても、何も変わらないし、何も得られないのです。

何か変化を起こせるとしたら・・・それは「今、ここ」でしかないし、リアルに愛情を感じられるのも「今、ここ」以外にありません。

ウィノナ・ライダーはほんとうに繊細で透明感のある演技。それに対してアンジェリーナ・ジョリーはすごい存在感。ウィノナ・ライダーの静かな世界と、アンジーの大迫力が対照的です。

アンジーは、完全に主役を食っちゃってます(彼女はこれでアカデミー賞とってるのですよね)。そして、23歳にして迫力のぽってりくちびる。このくちびる、やっぱりホンモノだった!?