お茶の間シネマトーク「リリーのすべて」

ヒプノセラピスト古川貴子のブログ

世の中の重要な変化って、じつはここ百年ぐらいで急速にもたらされているように感じます。

たとえば、心の病気の治療。フロイトが現れるまでは心の病は悪魔払いの分野だったし、まっとうな人権や男女平等だって真剣に問われるようになったのは、つい最近のこと。パソコンや IT の技術革新も、三十年まえには今のような普及は思いもよらなかったし。

トランスジェンダーの問題も、医学的な性別と本人の自覚が違うことを、本人や周囲が受けとめる風潮ができたのも昨今ですよね。

この「リリーのすべて」は、1930年代にはじめて性別適合手術を受けた男性のお話です。

デンマーク人の画家のカップル。ある日、モデルが来なかったことで、妻が夫にモデルになるように頼みます。「足だけデッサンさせて」と。そこで彼ははじめて絹の靴下をまとい、膝に美しいドレスを抱えてじっとしているうちに ・・・ 彼のなかの別な誰か、「リリー」がむくむくと目を覚ましてしまったのです。

突如そうなったわけではなく、彼は幼少の頃に自分のなかの女性に気がついていたものの、大人にとがめられたために隠し続けてきたのでした。でも抑圧が強かったぶん、一回目覚めてしまったその欲求はもう後戻りができません・・・。こっそりとドレスをまといお化粧をするように。その体験に彼は恍惚感をおぼえるのです

妻にとっては無二の親友リリーが姿をあらわし、もちろんそのリリーを心から愛しているのですが、リリーを見るたびに夫が永遠に消滅してしまったという事実をつきつけられるようで、葛藤を経験します。今までどおりに愛したい・・・けれど彼女を見ていると悲しすぎる。

一方リリーもどんどん女性化して美しく着飾るようになるのですが、自分の身体という現実を見てしまうとそれを殺してしまいたい衝動にもかられ、でもそうすればリリーも死んでしまう・・・と苦しみます。

夫婦でなんとかしようと次から次へとドクターを訪ねるのですが、診断は「狂人」「精神分裂」「脳の病気」・・・はては精神病院に監禁されそうになるし。

たったひとりのドクターだけが、リリーのことを「頭のおかしい人」ではなく「Miss」と呼んで、ほんとうに彼の心のなかで起きていることを理解してくれたのです。それが、世界ではじめての性転換手術を行ったドクターでした。

エディ・レッドメイン演じるリリーが、とってもチャーミングで抱きしめたくなります。エディは決してオネエではないので、繊細な表現力です。レオ様の鬼気迫る演技におされて、残念ながらオスカーは逃しましたが・・・。

苦悩するリリーを、自分も苦しみながらも必死で支えようとする奥さんの姿も美しいです。愛する人は変わらずにそこにいるのに、でも今までどおりには愛せないなんて・・・切ないですね。 (;_;)

さてさてみなさまは、愛するひとがある日突然、性別が転換してしまったらどうしますか?  え?! いっそ、夫がおネエ化してくれたほうがわかりあえるに違いないって? (^。^;