お茶の間シネマトーク「ダンシング・べートーヴェン」

古川貴子のブログ、ヒプノセラピー/カウンセリング

モーリス・ベジャールの「ボレロ」は、ドラマチックな振り付けで有名です。

その大成功した「ボレロ」の次なる傑作が、べートーヴェンの「第九交響曲」。しかし、1978年にベジャールによって上演が封印され、ベジャール亡きあと「第九」の再演は不可能といわれてきたそうです。

その「第九」が、東京バレエ団の創立50周年記念としてモーリス・ベジャールバレエ団と共同制作されることになり、その上演までの9ヶ月間を記録したドキュメンタリー作品です。

生涯にわたってひとつの作品を手直ししつづける振付家もいるそうだけれど、ベジャールは次々と新しいものを生み出すタイプ。そしてその姿勢は彼の生みだすダンスにもあらわれていて、まるでフロアに足がつくまえに次のステップをふんでいくような独特の振り付けです。

「第九」を作曲した頃のベートーヴェンはほとんど聴覚を失っていたそうなので、もしべートーヴェンがベジャールの「第九」を見たら、音のひとつひとつを「目にする」ことができただろうに、とコメントされていました。それだけひとつひとつの音を大切にして振り付けされているので、ダンサーはとても繊細な表現を要求されます。

ローザンヌと東京でのダンサーたちの稽古風景、そのあいだに起こったアクシデント、演出家やダンサーのインタビュー、オーケストラや合唱団の練習風景がおりこまれ ・・・ 出来上がった舞台では、350人ものアーティストたちがごく自然に踊り、演奏し、歌っているけれど、そこまでの全力で創りあげてゆく道のりをつぶさに見ることができます。



そして、出来上がった「第九」は今まで自分が知っていた「第九」とは思えないものに。あらためてベジャールのダンスにこころが揺さぶられ、引きこまれるのを感じました。

ああ、またこの作品が上演されることがあったら、最初から終わりまでの流れを感じながら、まるまるすべてを楽しみたいものです。