お茶の間シネマトーク「ラブリー・ボーン」

古川貴子のブログ、ヒプノセラピー/カウンセリング

「こちらの世界」と「あちらの世界」のお話です。

愛情いっぱいの両親に見守られながら育ったスージーは14歳。ひそかに想いをよせる男の子から誘われて、嬉しさで胸がいっぱいです。

しかしその帰り道、スージーは卑劣な男の手にかかり殺されてしまいます。

両親は突如消えてしまった娘について手がかりがつかめず、深い悲しみに沈みます。やがて、こころのバランスを崩してゆきます。

一方、突然殺されてしまったスージーは状況を受けとめられず、こころは必死で家へと向かいます。しかし、スージーの目にする世界は彼女の怯えたこころを映しだすばかりで、もうもとの世界に自分はいないのだと気づきはじめます・・・。(→予告を見る)

両親もスージーも被害者なのですが、悲しみのなかで憎しみをつのらせるうちに、いつしか最も嫌悪する加害者と同じようになってゆきます。「あいつをたたき殺したい!」と。まるでゾンビに襲われて、自分もゾンビ化してゆくようです。

怒りに燃えた父親が最悪の行動に出そうになったとき、あちら側にいるスージーの必死の想いが彼を救います。

私たちは「すべては完璧でこれがベスト」という言葉は知ってはいても、実際起こったものごとを見るとベストだとは思えないという体験しますが、この場面を観て「ああ、愛に守られて最悪の事態は避けられたからこそ、この出来事でよいのだ」と納得することができました。

結局、残された家族もスージーも、過去から解き放たれなければ一歩もまえに進むことなどできず、ずっと同じ場所で同じ想いを反芻することになってしまいます。

でも、いのちは時空をこえて決して消えることがなく、「愛」はこの世とあの世の隔たりを越えて癒しをもたらします。

ちょっと不思議なファンタジーでもあり、またサスペンスのようにドッキドキです。

光にあふれるあちらの世界を描きだしているのは、「ロード オブ ザ リング」の監督さん。

スージーを演じているのは、アカデミー賞ノミネート作「レディ・バード」のヒロイン、シアーシャー=ローナンだったのですね。あまりにキャラクターや体型が違っていて、観終わるまで気づきませんでした。スージーは可憐ですが、「レディ・バード」の彼女はたくましいです。

スージーのおばあちゃん役にはスーザン・サランドン。お年を重ねても存在感に変わりはありません。エッジのきいたおばあちゃん役は、まえだけを向いてみんなをグイグイ引っぱってゆきます。

たとえ向こうに行ってしまったとしても、それは終わりではなく、ただストーリーや登場人物、背景が変わるだけで、いのちやつながり、愛は決して途絶えることなどないのですね。

想いは、どこにいようとも、どんな瞬間にもつながっていてコミュニケーションしている、と強く感じる作品でした。