お茶の間シネマトーク「パーソナル・ソング」

古川貴子のブログ、ヒプノセラピー/カウンセリング

最近は、YouTube でひと昔まえの音源を気軽に検索して楽しめるようになりました。

お友だちと学生の頃に聴いていた曲をメールで送りあっては、「あ〜、これ懐かしいね〜!これ聴いていた頃、お互いこんなだったよね〜♪」なんて、ふだんは思い出すこともない話がつぎつぎに語られたりして。まるで当時に戻ったような気分になります。

昔お気に入りだった曲を耳にすると、そのときどんな状況で聴いていたのかとか、どんな生活をしていたのかとか、どんな気持ちだったのか、はたまたどんな服を着てどんな香りが好きだったのかまで、その当時をありありと思い出すことができます。

音楽が呼び水となって、こころの底にうもれていた記憶の箱のフタが開くよう・・・。

昨日観た作品「パーソナル・ソング(ALIVE INSIDE)」は、そんな昔の記憶をよびもどす力のある音楽を認知症の改善に役立てている方たちのドキュメンタリーです。

ホームで暮らす認知症が進行したお年寄りの方々は、家族や介護の方が話しかけてもほぼ無反応で感情を失ったように見えます。

瞳はうつろで、存在自体がすでに抜けがらのよう。ただ最低限のことに反応するだけです。

ところが! ・・・そのご老人たちに、それぞれが好きだった思いいれのある音楽をアイポッドで聴かせてみると、

あらあら、不思議!

ダラ〜ンとしていた操り人形に魂がふきこまれたよう!

瞳がパッと明るくなり、まるでいっきに電源スイッチが入りなおしたように生命がみなぎるのがよくわかります。

ずっと無反応だったある人は、ヘッドホンを耳にするやいなや目を大きく見開いて、過去の思い出話しをほとばしり出るがごとく語りはじめ、それがもう止まらないのです。まるで自分が誰であるのか思い出したかのよう。

ある人は、力なく歩行器にもたれかかっていたのに、音楽を耳にするやいなや顔は輝き、歩行器そっちのけで楽しそうにダンスのステップを踏みはじめます。

うつむいたきりだった人も、高らかな美声で歌いはじめたり、「(アイポッドに)何曲はいるの?2000曲いれて!」とすっかり前向き!

もぬけのからだったような方々がいきいきと生命と感情を取り戻し、まさに覚醒してしまうのです。

脳内で音楽を司る部分は、認知症になっても破壊されにくいそうです。

記憶の衰えや日常にうまく対応できないだけで認知症というレッテルを貼られ、あっというまにさまざまな薬を与えられ、刺激の少ない単調なホームのなかでただ起きて、食べて、寝るということをくりかえしているうちに、正常だった部分もどんどん失われてゆくようです。

認知症をはじめとして、身体や精神の不具合についての対処は、たんに表面にあらわれている結果(症状)に対して投薬するだけの治療だったりするので、目に見えないところにある原因の改善とはほど遠いようです。

でも、この音楽療法は、結果に対処することによって忘れさられてしまっていた原因の部分(こころ)を活性化することに役立っているようです。

たった一回でも、その方が好きだった音楽を聴くことで、まるで置き去りにされてホコリをかぶっていたロボットが急に電源につながれて息をふきかえすがごとく、まさにシャキーーーンという音がきこえてきそう。

その劇的な様子は、忘れさられて眠ってしまっていたこころが、あざやかに復活をとげるようで、それぞれのご老人から溢れ出す喜びの様子を目にして涙が出てしまいました。

やはり、どのような身体や精神の不具合でも、こころを置き去りにして治療も回復もないことがよくわかります。大切なのは、あたたかな愛の思い以外にはないようです。

そのためには、こころをもっとストレッチしてあげることが大切なのですね。
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