12-03-01 不満をじょうずに口にするには? その2

(その1より)

そもそも相手にイライラしているからこそ、モノ申したいわけです。すると、どうしても不満や怒りなどの「感情」が暴走してしまいがち。あるいは「文句を言う」ということこそ、文句なんだから腹を立てていてあたりまえと思っている方もいらっしゃいます。

しかし、たとえその内容が正しくとも、わたしたちは誰も「自分を非難されること」には慣れていません。そこに批判や文句があれば、人は素早く身構えてしまうし、ましてや攻撃的なエネルギーが感じられようものなら、すぐに戦闘態勢に入るか、すばやく門戸を閉じてしまうかのどちらかです。

相手とケンカしたい、あるいは相手をギャフンといわせたいという場合をのぞいて、これはうまくいきませんよね。問題解決からは遠のいてしまいます。

自分が本当に伝えたいメッセージがあるからモノ申すのに、すでに聞いちゃもらえない状況です。まずは何よりもちゃんと言いたいことが伝わえること、相手が心を開いてそれを受けとる態勢でなければなりません。そのためには攻撃的な態度やコントロール、非難の気持ちは御法度です。

コミュニケーションとは、あくまでも平和的に行われるもの。それに対して、感情のぶつけあいはただのバトル、ケンカです。そのためには、自分の言いたいことを的確に伝えて、相手の意見にも耳を傾け、ちゃんと意見交換をすること。

ここでは、つい先行しそうになる不快な気持ちや怒りなどはじっと我慢して、ひとまず脇に置かなければなりません。そして、自分が何を伝えたいのかを冷静に的確に言葉にしてゆく必要があります。それも相手が理解できるぐらいの量と内容にしてあげるという配慮も必要(一度にたくさんのことを言われても、相手はわたしたちが思うほど理解できていません)。込み入った問題の場合は、「じゃあ、また話そうね」と言って小出しにすること。あくまでも、軽く、楽しく、平和的な雰囲気で、相手が防御して戦いに発展したり、完全にシャットアウトしてしまうのを防ぎます。

そのためには相手が間違っていても、正してやろう!という上から目線は致命的。それがどんな生き方であろうとも、本人がそれでいいのだ!と言う限り、誰にもそれを正す権利はないのですね。ですから、あくまでも相手の立場や価値感、存在を尊重しつつ、同じ目線で相手の感性への思いやりをもって話すことが大切です。

ネガティブなことを伝えるポイントをまとめてみると、

1、イライラ、怒りなど、この状況に対する「感情的な気持ち」はひとまずワキに置いておく。(感情を出したら逆効果。何も達成できません。ここは、ポーガーフェイス!です。)
2、自分はいったい何を要求しようとしているのかをはっきりさせる。「ゴミを出しを手伝ってほしい」「そのオモチャで遊ばせてほしい」など。
3、相手がなぜ今、それができていないのかを相手になったつもりで推測してみる。「もしかして、ゴミ出しは近所の人に見られるのがイヤなのかも?」「新しいオモチャだから、まだ遊んでいたいんだな」
4、なるべく相手のしていることを邪魔しない時間に話しかける。「ちょっと、話したいことがあるんだけど今いいかしら?」と明るく、軽く。
5、立ったままよりも坐るなどして、目線の高さをあわせる。(上の方から話しかけると、それだけで相手は防衛的になります。)
6、本当に伝えたい用件を、感情をまじえずに、明るく、軽く、シンプルに、相手にわかりやすく手短かに伝える。「ねえ、ゴミ出しのことなんだけど、手伝ってもらいたいの」「そのオモチャ、ぼくも遊びたいんだ。いつあくかな?」
7、つっぱねられたり、拒絶的な態度にでられたら、やんわりといったん同意し受けとる。「あら〜。そうなの」
8、「わたし」の問題ではなく「ふたり」の問題であるように自覚させ、相手が何か提案できるように質問する。「そう、困っちゃたわね〜。ねえ、ゴミたまっているんだけど、どうしたらいいと思う?」
9、自分の要求と相手の言い分との落としどころをさぐる。(ある程度は妥協も!)
10、込み入った問題のときには、あらかた自分の意図は伝えてたらいったんその場は退却し、日をあらためる。「じゃあ、また話そうね〜」と一時保留。
11、相手を尊重しながら相手の意見にも耳を傾ける。(わからないときには、「それってどういうことなの?」と丁寧にわかるまで何度も尋ねる。尋ねることによって、自分が理解していなかった相手の本当の問題に気づけるようになる。)

つまり、自分の言いたいことを相手が警戒したり身構えたりしないようにソフトに提案しながら、それについての相手の意見を聞きき、歩みよりつつ落としどころを探ってゆくということ。しかし相手が閉じてしまうと、もうそこからはコミュニケーションができなくなるので、言葉を受けとる相手への思いやりが大切になります。

怒っているんだから、相手なんて思いやれるか!と言われそうですが、ソフトなアプローチの方が自分の目的を達成する確立はかなり高くなります。あるいは、相手からの思わぬ協力さえも得られるかもしれません。一方、相手の気持ちを害してしまったら、そこから自分の要求を聞いてもらうことは取っ組み合いをしたとしてもムリでしょう。

そして、一発ですべてを思い通りにしようと思っても、それもまた相手へのコントロールにつながり反発をまねきかねません。ソフトな雰囲気で話し合いが続くようにすること。そして自分もある程度妥協することも必要かもしれません。しかし、攻撃的な姿勢がなくなるだけで、相手は予想外に協力的になったりするものです。

「人と人との関係には、かならずや葛藤がつきもの」ということも覚えておく必要があります。なぜなら、相手はまったく育ちも考え方も信念も違う別の人。わかっていると思っても、そこにははじめから大きな違いがあって当然。「人対人の付き合いでは、意見の食い違いは当然だ」ぐらいに思っている方が、何かあってもわかってもらおうとする努力を続けることができるし、腹も立たなくなりよい関係を長く続けてゆくことができます。

はじめから「相手と自分は違う」と思っていれば、「違い」に対する葛藤も減らすことができます。

また日常の人間関係の中で自分を正しくわかってもらえるように自分の気持ちを話したり、積極的に自分を開いてゆくことも大切なこと。そうすると、相手も安心して「小さな不調和」でも素直に打ち明けてくれるようになります。

夫婦でケンカ、一回もありませんよ!なんて言っているカップルに限って、ある日突然あっさり離婚してしまったりします。食い違いは当然と思って、こまめに打ち明ける勇気をもつと、長く深くかけがえのない関係が築けるようになるのですね。

自分にとって大切な関係であるならばなおのこと。「波風を立てないように」といってガマンしたあげくトルネード級の破壊にならないように、日々のプチなフラストレーションを感じたら自分の伝えたいメッセージを的確にしつつ、軽く、明るく、伝え続ける練習をしてみてくださいね。植物が育つように、ちょっとこまめに手入れをすることによって気持ちのいい関係が育ちだし、きっと以前よりも相手を大切に感じられるようになると思います。

そして、自分の気持ちに対して正直にふるまえることで、自分を幸せに導いてくれる自尊心も育ってくることでしょう。

(「気づきの日記」バックナンバーはこちら: 古川 貴子/心理療法家・ヒプノセラピスト)