「正直さ」をどう使う?
「自分に正直である」ということは、幸せに生きるために不可欠なことです。
なぜなら、自分の本当の気持ちを無視すると、心のなかにある違和感に気づくことができなくなり、軌道修正のチャンスを失ってしまうからです。
正直であることは、自分の心に耳を澄まし、余計なものを手放し、本来の自分として軽やかに生きるための道具です。
しかし、多くの人が「正直さ」を誤解しがちです。

「正直さ」とは、思ったことをズバズバ言うこと?
あるクライエントのA子さんは、「思ったことをすぐ口にすることが正直さだ」と信じていました。
「私は本音で生きたいから、遠慮せずに何でも言う」と考えていたのです。
確かに、自分の感情を押し殺してしまうのは苦しいものです。
けれど、感じたことをそのまま口にすれば、それが「正直な生き方」になるのでしょうか?
実際には、そうした態度が人間関係の摩擦を生み、「私って正直なのに、なぜか人間関係がうまくいかない」と悩むことも少なくありません。
なぜなら、「正直さ」とは「思ったことをそのまま外にぶつけること」ではないからです。
むしろ、自分の心の内側を正直に見つめることが、本当の意味での「正直さ」なのです。

「正直さ」を使って自分のエゴを見抜く
たとえば、誰かの言葉に傷ついたとき。
「今のひと言、すごく嫌だった!」
そんな気持ちがわきあがったとします。
このとき、正直になるとは「相手に怒りをぶつける」ことではありません。
「あなたのせいで傷ついた!」と責めるのは、一見「素直な反応」のように思えますが、実は「自分の傷を相手のせいにする行為」になってしまいます。
そうではなく、正直さを自分の心のために使うなら、こうなります。
「なぜ、私は今のひと言でこんなに傷ついたのだろう?」
「もしかすると、私は『価値のない人間だ』と思われるを怖れているのかもしれない」
「その怖れの根源はどこにあるのだろう?」
「私は小さい頃から、自分が尊重されていないように感じてきたため、自分には価値がないと信じ込んできた」
「しかし、価値がないと信じたのは自分だ・・・」
このように、自分の心を深く掘り下げていくと、過去の経験や思い込みに行き着きます。
そして、気づいたとき、すでに心の癒しは始まっています。

「正直さ」は武器ではなく、癒しのために使う
誰かに対して文句を言いたくなったときも、同じことが言えます。
「なんであの人はこうなの?」
「もっと○○してくれればいいのに!」
こうした不満が湧いてきたときこそ、まずは自分の心に目を向けてみましょう。
「私はなぜ、これにこんなに反応しているのだろう?」
「この人が変われば、私は本当に心地よくなれるの?」
私たちはつい、「この人さえ変われば、私は楽になる」と信じてしまいます。
けれど、心の奥にある「自分の不安や怖れ」を見ないままでは、たとえ環境が変わっても、また同じような問題に直面することになるのです。
つまり、「正直さ」とは、外側に向けて発するものではなく、まずは自分の内側を見つめるためのもの。
そこに気づいたとき、自分の心も、そして人間関係も自然と穏やかになっていきます。

正直に向き合うことで、安らぎの扉が開く
心は、つい「外側の世界」に向かおうとします。
「あの人が悪い」「あの状況さえなければ」と、目の前のものをどうにかしようとします。
でも、その手には乗らず、まずは「自分の心の中」に戻ってきましょう。
そこにある思い込みやエゴに気づいたとき、世界や人を裁くことをやめ、また戦いからも自由になることができ、平和で穏やかな気持ちになれるからです。
どんなときも、自分の心に正直でいること。
それが、安らぎへの鍵であり、本当の幸せへとつながる扉なのです。
(「気づきの日記」バックナンバーはこちら: 古川 貴子/ ヒプノセラピー・カウンセリング )